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M.D.- Ph .D. コースを修了して
医学科5年 井 澤 有 紀

 M.D.-Ph.D. コースの第1 期生として大学院博士課程に進学し, あっという間に3 年間が過ぎました。本年3 月無事学位取得* 修了となり, 現在は5年生に戻り, 新しい同級生と一緒に臨床実習を受けています。今回, 改めて3 年間の大学院生活を振り返ってみました。私のホームであった情報伝達薬理学教室では玉置教授提唱の『楽しく研究」をモットーに,多くの学生が自由に研究生活を送っています。私もこの3 年間, 自由で楽しい毎日を過ごさせていただきました。

1 年目・・・朝早くから夜遅くまでひたすら実験をしていました。何しろ初めてのことばかり。知識もないままがむしゃらに行って, 無駄に失敗を繰り返していた頃です。

2 年目・・・いろいろな学会に参加し, 日本各地の美味しいものと出会いました。北は北海道, 南は宮崎, そして海外まで。。。学会の合間を縫って名所を訪ね,更に海の幸、山の幸などご当地グルメを楽しみました。頻繁に学会に顔を出していたおかげで学外の先生方に顔と名前を認識していただけるようにもなり, ご指導を賜ることができました。このように他大学* 他学部の先生方と知り合うことができ,全国の著名な先生方の講演を聞く機会に多く恵まれたのは, やはり大学院に所属していたからこそと思います。最初のうちは他研究者の発表などさっばり理解できませんでしたが, 分からないまま聞き続けているうち, なんとなく内容を理解できるようになり, また自分なりに結果を解釈することができるようになってきました。

3 年目・・・なんとか論文も形になり, 余裕が出てきたため蔵本地区大学院生が情報交換をするためのメーリングリストを立ち上げてみました。医学研究科のみならず, 栄養* 薬学・歯学・ゲノム・酵素研といった各分野の大学院生たちが登録し, 花見などのイベントを通じて交流を深めました。・・とは言ってもこのメーリングリスト, 現在立ち消え状態になってしまい, まったく 稼動しておりません。誰か引き継いで管理してくれる方を募集しております。継続・有効活用できなかったことが3 年間の心残りの一つでもあります ま か.. , Tokush1maBioscience Retreat では同じように研究に励んでいる他分野の院生の発表を聞きました。医学部の薬理で学んでいるだけでは気付けない,私とは異なった着眼点や仮説に対するアプローチ方法を持っている人がこんな身近にいることを知り,大変刺激を受けました。そんな強豪ばかりの中,ラッキーなことに勢いだけで優秀発表賞をいただき初の国際学会参加を果たすことができました!

 M.0.- Ph.D. コースを選択して良かった点は, 玉置先生や吉栖先生とたくさんお酒を飲んで,美味しいものを食べることができた点です。3 年間を振り返ると思わず飲み会や旅行の想い出ばかりが蘇ってきます。日本酒や焼酎やワインの美味しさを, 研究以上に( ! ) 丁寧に教えて下さいました。二つ目はやはり医学研究の基礎がいかなるものかを集中して学ぶことができた点です。
① どのように情報収集するか
② 実験をうまく進めていくためには? トラブルシューティングをどうするか
③ データをどのように解釈するか
④ 人に分かりやすくデータや考えを伝えるためには, どうまとめ, 流れを構築するか
⑤ プレゼンテーションに必要なことは?
⑥ 論文はどう書くのか
⑦ 仮説はどのように立てるのかなどなど。
全く無知な私に上記に挙げるような研究のノウハウを, 吉栖先生中心に薬理の先生方が根気強く丁寧に指導してくださいました。“学生” という立場は, 物事を学ぶには便利だなぁと実感します。

 しばらく碁礎研究からは離れますが, 将来再び医学研究に携わったときに必ず役立つことと思います。また, 何よりの収穫は前述の通り“出会い” です。私は元来環境や人に影響されやすく,この3 年間で形成された私の行動や思考の基準及び目標は, まさしく玉置先生, 吉栖先生, 土屋先生を始めとするお世話になった学内外の多くの先生方や, 長い時間を共にした仲間たちに基づいています。むしろ私の体そのものが, これまで出会ってきた多くの人のエキスで作られているんじゃないかとさえ思えてきます。臨床実習に戻ってみて知識の面では改めて勉強し直さなければならないところも多いですが, やはり大学院で学んだ“論理的思考” は, 臨床医学の場でも大変役に立っていると感じます。

 今はまだ概要を知り知識を蓄えるための実習ですが, 実際医師になって自分の判断で臨床を行う際には, 客観的に物事を捉え必要な情報を選択し, 更にそれを論理的に考察し分かりやすくまとめる,といった研究の手法はますます有用になってくるのではないでしょうか。

 学部生の皆さん, M.D. - Ph.D. コース進学には少しばかり壁もあるでしょうが,是非一度選択肢の一つとして考えてみて下さい。今私はこの道を選択したことにとても満足しています。そして今後, この3年間の経験を活かし益々チャレンジしていく予定です。きっと皆さんもこのコースを選んで後悔することはないはずです。

 また, 青藍会の皆様にはM.D. - Ph.D. コース進学に際し多大なご支援を頂き, 誠にありがとうございました。ようやく元の道に戻り, 次は臨床医になることを目指して頑張っております。これからも様々な場面でお世話になることがあるかと思いますが,ご支援ご指導の程宜しくお願いいたします。

 最後になりましたが, 我儘放題の私を3 年間根気強くご指導いただきました,
薬理学教室の玉置教授,吉栖先生に厚く御礼申し上げます。



3 年間の苦難の末に得たもの
医学科5 年  坂 根 亜由子


 今回, MD-PhD コースでの3 年間の思い出をという原稿依頼を玉置先生からいただきました。玉置先生の考えておられる趣旨からはずれているかもしれませんが, あらためて私のこの3 年間を振り返り,それを一言で表現するならば「苦難」が当てはまるのではないかと思います。

 私はこのコースに入学する以前の医学科の2年次から佐々木先生の教室(分子病態学分野:旧生化学)で実験に参加させてもらっていましたが, その当時は自分が研究の道に足を踏み入れようとは夢にも思ってはいませんでした。その頃は, 初めて見る研究室の空気がとても新鮮で,SDS - PAGE やWestern blot などの手技を教えてもらい,実験をするということがただただ楽しかったことを覚えています。当然, 毎日の学部の講義を終えてから実験を始めると0 時をまわり,翌朝は8 時3 0から講義ということもめずらしくありませんでしたが, 妙な充実感を感じていたものです。

 MD - PhD コースに入学後は(これも予定外のことでしたが), 学生時代にあった講義や実習の全くない,朝から晩まで完全に研究に没頭できる最高の環境と思いきや,様々な試練が次から次へと怒涛のごと私たちの仕事が認められて, 日本語の総説も書かせていただきましたく押し寄せてきました。それが実験ではなく研究をなのですが, 今ではその無駄の積み重ねこそが重要するということなのだと痛感しました。それでも,何とか打破できないかと思案し, 早朝から深夜まで時には明け方まで実験したりして必死にあがいていましたが,何のために自分はこんなことをしているのだろう? 他の人はもっと楽しくやっているじゃないか?研究の道に入ったことは間違いではないか?と悩んだり, もうやめてやる! と憤ったことも幾度もありました。

 私が学位論文となった仕事に出会ったのは, そんな時でした。もう, すでにいくつかのプロジェクトをもっていましたが,いずれも上手くいっておらず,今から思えばよくその仕事をやる気持ちになったものだと思うくらいです。私が新たに引き受けることになったそのプロジェクトは, ノックアウトマウスの解析で, その流れは佐々木先生が師匠である大阪大学の高井先生の教室におられる時から続いている歴史のあるものでしたが, 当然簡単に上手くいくはずもなく,マウスの世話からマウスを用いた実験等, 今までやったことのないことばかりで悪戦苦闘の毎日が待っていました。

 難題に突き当たっては, あーでもない, こ一でもないと考えつく限り, 出来得るすべてを尽くして試行錯誤してきましたが,最終的にはその十分の一ほども報われることはありませんでした。他人からみれば, ほとんど無駄と思えることをあきれるほどがむしゃらにやってきたことになるわけなのですが, 今ではその無駄の積み重ねこそが重要で,その上にゴールがあるのかもしれないとさえ思えます。また, この仕事は私一人の力だけではなく,多くの先生方に助けていただいたからこそ成し遂げられたものです。この時の他分野の先生方と接する機会が得られたという経験は,今まで私にとって未知であった分野に踏み出すきっかけとなり, 研究を進めていく上で一点からのみではなく広く多方面から物事をとらえていくことを学びました。そのような中で, 学部生の頃に感じていたものとは全く異なる,ひとつの仕事を成し遂げるという充実感や感動を味わうことができました。これこそ研究の醍醐味であり, この時のために今までがんばってきたのだなと実感しました。そして, 今ではそれがこれからももっとがんばりたいと思えるような原動力となっています。

 この3 年間は決して平坦な道のりではなく苦しいことばかりでしたが, 最後には大きな喜びもあり,ひとつの仕事を通して私なりに成長を遂げることができたのではないかと思っています。また, 最近では学内・外の先生方がこの仕事に関してお言葉をかけてくださることが,これからももっともっと良い仕事をしていかなければという励みになっております。今後, どのような道に進むことになったとしても,このMD-PhD コースでの3 年間の経験は私にとって大きな財産であり,私を支え, 助けてくれることと思います。

 私はこの4 月から医学部5 年に復学し, 現在, 臨床実習中です。以前よりもさらに忙しく,実習終了後や土日などの休日にしか時間をとることができませんが, 相変わらず研究をしています。今までやってきて上手くいっていないいくつかの仕事, 続きとして新たに派生してきた仕事等を何とかゴールまでもっていくことが次の目標です。しかし, そのためには新しいことをたくさん学んでいく必要があり,現在奮闘中です。これも長く険しい道のりになりそうですが, 焦らず辛抱強く臨床実習, 研究ともにがむしゃらにがんばっていきたいと考えています。

 私はMD - PhD コースに入学当初, 期限を4 年間に延長してでも自分が納得するまでとことん研究したいと思っていましたが,この学位論文となった仕事が一段落し, 論文という形になった時点でMD-PhDコースでの3 年間にひとつの区切りをつけたいと考えました。その際には, 曽根先生, 松本先生, 安友先生をはじめとする先生方が私のわがままをご理解くださり, ご支援してくださったことで無事に卒業することができました(論文もPNAS にアクセプトとなりました) 。また, 松本先生にはCOE 大学院研究員として採用していただき, 青藍会には入学時にご支援いただきましたので, 経済的に心配することなく研究に専念することができました。

 最後になりましたが, この場をお借りして厚く御礼申し上げます。もちろん, 私の研究を始めるきっかけでもあり, 私を学部生の頃から怒鳴り続けてここまで育ててくれた, また,私と同様に, もしかしたらそれ以上にこの3 年間がむしゃらに走り続けた師にも敬意と謝意を表したいと思います。