About Lexicon

10ヶ月間のアメリカ留学を終えて
 
医学科5年 西     晃

 私は平成26年2月から12月までの10 ヶ 月間,青藍会からご支援をいただき,アメリカのニューヨークにあるAlbert Einstein College of Medicineに留学させていただきましたので,報告をさせていただきたいと思います。

 私は徳島大学にあるMD-PhDコースを利用して,医学科4年生から大学院に進学し,昨年度までの3年間,精神医学教室にて研究活動に従事しておりました。元々精神科医になりたくて医学部に入学したのですが, 3 年生の時に実施される研究室配属で精神科での研究に触れ,臨床医として患者さんを診るだけでなく,病気そのものを研究することの大切さに気づかされました。できるだけ早く研究を行う上で必要な手技や知識,思考能力などを身につけたいと思い,このコースに進学しました。

 大学院では主に統合失調症の研究を行いました。統合失調症は生涯罹患率1%と,頻度の高い精神疾患ですが,その発症メカニズムなどは未だによくわかっていません。私はOne-carbon metabolismという代謝経路に注目し,血漿ホモシステイン濃度の上昇,ホモシステイン濃度の代謝に関わるメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素の遺伝子多型が,統合失調症の発症リスクを上昇させることを明らかにしました。この研究結果は大森教授の御厚意により,国内学会と国際学会で口頭発表を行う機会をいただき,論文にまとめることができました。

 幸いにして最初の2年間で学位取得の目処がつきましたので,大学院の最後の一年間,沼田講師にご紹介いただき,Albert Einstein College of Medicineの廣井昇教授の教室に留学させていただきました。廣井先生はアメリカの精神神経分野で最も成功されていらっしゃる先生のお一人で,薬物依存の研究をはじめ,近年は神経発達や自閉症の研究を主にしていらっしゃいます。徳島大学では患者さんからいただいた末梢白血球を用いて研究を行っていましたが,廣井先生は疾患モデルマウスを用いて研究を行われていました。何をするにも初めてのことばかりで大変なことも多かったですが,それ以上に研究をしていて楽しい,面白いと思うことが多く,非常に貴重な時間を過ごすことができたと実感しております。廣井先生も私をゲストではなく,スタッフとして扱ってくださいました。仕事に関しては厳しく,事細かに追求する姿勢を貫き,一方で,わからないことや実験をしていて困ったことについては,建設的で前向きなアドバイスをしていただきました。私の拙い意見にもしっかりと耳を傾けてくださり,研究をする上で,何が良くて何が足りないかを指導していただきました。廣井先生の研究者としての姿勢は私の理想に近いもので,そんな方に出会えたことは本当に幸せだったと思っています。

 留学前は廣井先生の下で研究に関することを学べれば十分だと思っていました。しかし,異国で生活をするというのはそれだけで価値のあることなのだと気付きました。普段の生活の中で文化,貧富,地位,肌の色など様々な「違い」を感じることができました。また,アメリカという他国のことを知ったことで日本という国を客観的に見られるようになり,自分の関わっている仕事や生活のことを今までよりも少し大きな視点で見られるようになったと感じています。大学院に進学した頃は全く考えもしていなかった留学でしたが,今は本当に行けて良かったと思っています。

 最後になりましたが,研究活動や本留学に関してお世話になりました精神医学分野の大森教授,沼田周助講師,また,新たに奨学金制度を設けて留学をご支援いただきました青藍会の皆様に,この場を借りて深く御礼申し上げます。