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基礎研究との出会いを通じて
医学科5 年 河 本 知 大

 私はMD-PhDコース生として,今春に博士号を取得し,現在は学部生として臨床実習に臨んでいる。本稿では,私がこれまで人類遺伝学分野の井本教授を始めとした先生方の指導のもと基礎研究に従事し得られた経験について記したいと思う。

 思い返せば,私が研究に出会ったのは学部1 年生のとき,入学して間もない頃に開催されたStudentLabの研究室紹介であった。当時,基礎医学研究に関して無知な私であったが,井本先生の紹介された研究内容になんとなく興味を持ち,少し研究室を覗いてみようと思った。そのような軽い興味がきっかけで学部の1〜 4 年生,さらにMD-PhDコースを利用して大学院までずっと当教室で研究に従事することになったのだ。学生時代一番頑張ったことを聞かれれば,自信を持って「研究です」と言えるほど研究に没頭してきたが,若いうちからの研究生活を通じて得られたものは大きかった。

 その一つが,医学における基礎医学の重要性に気づくことができたことである。生理学や解剖学,組織学,遺伝学など様々な分野に細分化された基礎医学はじっくりと時間をかけて教わる学問であるが,多くの医学生や医師には軽視される傾向にある。しかしながら,基礎医学研究によって得られた知見が臨床研究に応用されたり,臨床現場で得られた疑問や知見が再び基礎研究に繋がったりと,基礎医学と臨床医学は表裏一体である。昨今ではtranslationalresearchといった臨床により近い研究も盛んに行われ,自身が直接基礎研究を行うことで,臨床医学との密な関係性を体感することができた。この経験とそこで得られた思考は,多種多様な症状を呈する患者さんへの実臨床の現場でも大いに役立つだろう。

 もう一つが,様々な研究者との出会いである。大変光栄なことに,私は一つの専門分野に捉われることなく,様々な研究分野の先生方と共同研究を行わせていただいた。また,学部生の頃から長期休暇を利用し,東京や京都で開催されたバイオインフォマティクスの講習会など,国内国外問わず多くの学会にも参加した。さらに,院生の間には約1 年半愛知県がんセンターへと国内留学させていただいた。そこで出会った研究者の方々から,研究面だけでなく様々な面で貴重な話をお聞きすることができ,その出会いは私の見える世界を大きく広げた。このコミュニティーは私にとって今後もかけがえのないものである。

 上記の他にも,日本学術振興会特別研究員として公的基金を用いて医学研究を行うことへの責任感や,聞き手のことを考えたプレゼン力,新たな仮説を立て,その仮説検証のための実験計画を考え,得られた実験結果を考察する能力など,研究生活を通じて得られたものはここで紹介できない程ある。

 学部を休学し,先に大学院へと進学するMD-PhDコースはもちろんメリットばかりではなく,元の学年から離れることもあり心理的負担などデメリットもある。近年は,臨床実習の長期化や専門医制度の確立によって,本コースを選択する学生が減り,博士号自体を取得しない人も多い。しかし,基礎医学と臨床医学のいずれを将来選択するにしても,一度基礎研究をじっくりと時間をかけて行うことを私は経験者として推奨したいと考えており,大学院の3年間も研究に専念することができる本コースは選択肢の一つに十分に値する。

 最後に,ご指導を賜りました井本先生をはじめとしたお世話になりました諸先生方に,この場をお借りして厚く御礼申し上げます。