自身のMD‐PhDコースの意義とこれから
医学科5年 藤 本 将 太
私は医学科4年次終了後より3年間,消化器内科学教室で高山教授,六車准教授のご指導のもと,当教室初のMD-PhDコース生として,消化器系腫瘍の医学基礎研究に従事してきた。本稿では,この春の博士課程修了に際し,この3年間を振り返りつつ,自身のMD-PhDコースの意義と今後について少し考えてみたい。
医学研究のきっかけのほとんどは,日々の臨床で遭遇するClinicalquestion(CQ)にある。そして,CQに答えるにはそれ相応の研究遂行能力と
論理的思考力,論文執筆能力が必要となる。しかし,その能力は一日にして成らず,文献検索一つとっても,ある程度の本数の科学英語論文を読み,研究手法の実際を自らが手を動かして知らないと上手く出来ない。私はこの3年間で研究に十分集中でき,それらの能力を身につけることが出来た。このことは,これから臨床実習や臨床研修を迎える私にとって,大きなアドバンテージとなるだろう。新専門医制度が始まり,同世代の若い医師にとって,臨床と研究の両立がますます難しくなり,PhD取得が厳しくなると予想される中で,既にPhDを取得している私たちは,実習中や研修中に遭遇するCQに対しても,すぐさま科学的根拠(EBM)や解決方法(研究計画)を模索すべく行動を起こすことが可能である。
さて,私は博士課程の3年間を消化器内科学教室で過ごした。当教室はいわゆるBench toBedsideのTranslationalresearchを主とする教室であり,そこで私は,消化管間質腫瘍(GIST)に対する光分子イメージング(Diagnosis)と光免疫療法(Therapy)を組み合わせた新たな診断治療法(Theranostics)の開発をテーマに研究をしてきた。消化管粘膜下腫瘍であるGISTは表面が正常粘膜に覆われているため,消化器内視鏡での質的診断が難しく,適切な診断治療時期を逸する可能性がある。したがって,内視鏡下で簡便にGISTを早期診断できる新たなモダリティの開発が必要で
ある(CQ)と考え,内視鏡分子イメージングが専門の六車准教授のもと,GISTに対する内視鏡光分子イメージングおよび光免疫療法の基盤研究を行い,その成果を国内・国際学会,そして英文科学雑誌に発表してきた。特に,国内の消化器内科領域の基礎研究会で最もレベルの高い学会のひとつとされるG-PLUSにおいて優秀賞を頂けたこと,また,米国消化器病週間(DDW)で口頭発表の機会を得て,海外の医師及び研究者と意見をかわすことが出来たことは非常に貴重な経験となった。
また,高山教授のご厚意により,3年目最後の2ヶ月間,ニューヨークのAlbertEinsteinCollegeofMedicineで,かねてより希望していた研究留
学が実現した。留学体験の詳細はここでは割愛させていただくが,その中で再確認できたことがひとつある。それは,分業システムが確立しているアメリカにおいて,MD-PhDは唯一,現在進行形で“臨床と研究を橋渡し”出来る存在であり,それは日本でも同様ではないかということだ。患者のために医療を発展させていくには,BenchtoBedsideが可能なMD-PhDがやはり不可欠であり,Clinicalquestionを常に考え,“PhysicianScientist”として臨床と研究の橋渡しをしていくことが,自身のこれからの使命ではないだろうか。
最後に,MD-PhDコース博士課程の3年間,学位論文研究に対して手厚いご指導をいただき,また,学会発表や海外留学など数々の貴重な経験をさせていただきました高山教授,六車准教授をはじめ諸先生方に,この場を借りて厚く御礼申し上げます。